第37回日本乳腺甲状腺超音波医学会学術集会
会長 矢形 寛 (埼玉医科大学総合医療センター ブレストケア科)

 超音波検査は実に楽しい.手に触れる組織やしこりの感触と超音波画像の関係,他の画像との比較,目の前に写っているものは何なのか,何故そういう像を呈するのか,治療に直結する診断,手術にどう活かせるか,術前治療による変化は,血流は,硬さはなど,リアルタイムに行う検査の中で自分の手の動きとともにいろいろな思いをめぐらす.そしてこれを病理組織で確認してみたい,という気持ちで一杯になる.直接診療に影響しないものもあろうが,検査するものの心を駆り立て,もっと深く検査に関わりたいという思いが強くなる.超音波検査とはそのような医療者のやりがいを引き出すものである.患者のためとはいえども,忙しい臨床の中でただルーチンに仕事をこなすだけでなく,楽しみながら検査を行うことで,自分自身が磨かれ,ひいては検査の質と診療レベルの向上につながっていく.超音波検査をよく知ること,考えること,発見すること,そして実際に使えるようになることが本集会の目的とするところである.私はこのような考えのもと,知的好奇心を高められるような会にしたいと思い,今回のテーマを「超音波検査を” 楽しく ” 学びたい」とさせていただいた.
 乳房超音波検査は,有用性に関する質の高いエビデンスが徐々に出つつあり,臨床的価値がますます高まってくるであろう.更に超音波装置の性能も格段に向上し,誰もが使いやすく,高い可能性を秘めたものへと変貌を遂げている.一方で,リアルタイム超音波だけではなく自動超音波画像診断装置も登場し,他の画像装置のように乳房全体のデータを先に読み取って,後で様々な角度で診断できるようなものも登場している.私たちはこれらの多様性にも柔軟に対応し,長所,短所を明らかにしていく必要があるだろう.
 学術集会当日は,是非とも超音波検査の魅力が伝わるような発表をして欲しいと思う.それと同時に超音波検査が抱える問題点にもしっかり目を向け,真の有用性を追求する心を忘れず,忌憚のない意見を交わしてくれることを期待する.
 特別講演では,樋野興夫先生をお呼びし,「がん哲学」について含蓄のあるお話をしていただく.患者と対峙する際の1つのあり方を示してくれるものと思う.検査を受ける方たちは大きな不安を抱えているのであり,がん患者と深く話す機会がない医療者においても,そのような方たちに日々接しているのだということを忘れずに聞いてもらいたい.また,私が2011年に当番世話人を務めた第20回日本乳癌画像研究会で,「乳房の膜構造と血管解剖」についてお話をいただいた今西宣晶先生には,今度は更に乳房から頸部にかけての皮下組織の構造についての講義をお願いしており,体表解剖の知識を更に深めて欲しい.2日目午後は埼玉県における超音波検査(特に検診)の現状と展望についての企画を予定している.関連する医療者には是非とも集まって語り合っていただきたいが,これは他の地域においても役立つものと思うので,より多くの方の参加をお待ちしている.
 そして夜は,300年以上続き関東三大祭りの一つと称される”川越祭り”を満喫していただき,皆様に充実した2日間を過ごしていただくことを願う次第である.