乳腺疾患の病理
癌研究会癌研究所 乳腺病理部 堀井理絵
はじめに
乳腺疾患の病理診断は、組織型の種類が多いこと、異型の弱い乳癌や偽浸潤像を示す良性腫瘍があることなどから、複雑で非常に難しい。特に、治療前に用いられている針生検や細胞診では、検体が小さいことも加わって、正しい診断にたどりつけない可能性もある。画像診断はこのような可能性を治療前に察知し対処するために必要で、この場合、良悪性診断ではなく、組織型診断が要求される。一方、乳腺疾患の組織型は、主に組織構築の相違により分類されており、この組織構築は、疾患それぞれの形態学的特徴に反映されている。したがって、各疾患の形態学的特徴を理解することにより、画像から組織像を推測でき、正しい組織型診断に到達可能となる。
表に示した乳腺疾患の鑑別診断は、病変の形態学的特徴を把握し適切に組織型診断を行うための手順を簡潔に示している。今回は、この表に沿って、主要疾患の典型的な超音波像と組織像を対比して提示する。
乳腺疾患の鑑別診断
乳腺疾患の鑑別診断では、まず、腫瘤を触知するか否かで分け、腫瘤を触知する場合、画像での形状から限局型腫瘤、中間型腫瘤、浸潤型腫瘤、びまん型腫瘤に分類する。限局型腫瘤はさらに充実性と嚢胞性に分けられ、最終的に腫瘤を触知する場合、4つに区分される。腫瘤非触知の場合は、乳頭分泌を伴う病変と乳頭分泌がなく石灰化像で発見される病変に分けられる。そして、それぞれの区分毎に鑑別すべき疾患が列挙されている。
たとえば、腫瘤を触知し、その形状から限局型充実性腫瘤と判断された場合、良性疾患では、線維腺腫、管状腺腫、乳管腺腫、葉状腫瘍が、悪性疾患では充実腺管癌、粘液癌、髄様癌、葉状腫瘍、悪性リンパ腫が鑑別診断にあげられる。超音波検査は、マンモグラフィ検査と比較して限局型腫瘤の内部構造や辺縁における微細な相違を見るのに有用である。境界エコー、内部エコー、後方エコー、縦横比などの所見から、内部や辺縁の組織像を推測し、鑑別診断から最も相応しい疾患を選択し、超音波診断とする。
主要疾患の典型的な超音波像と組織像
限局型腫瘤 充実性 ・・・ 線維腺腫・葉状腫瘍・充実腺管癌・粘液癌
限局型腫瘤 嚢胞型 ・・・ 嚢胞内乳頭腫・嚢胞内乳頭癌
浸潤型腫瘤 ・・・・・・・ 硬癌・浸潤性小葉癌
びまん型腫瘤 ・・・・・・ 乳腺症・非浸潤性乳管癌
まとめ
超音波検査において乳腺疾患の組織型診断を適切に行うためには、
(1) 各疾患の典型的な形態学的特徴を組織像と対比しながら理解すること
(2) 超音波像から病変の形態を正しく把握し、鑑別すべき疾患を列挙できること
(3) 超音波像から内部構造や辺縁の組織像を推測し、鑑別すべき疾患から最も相応しい診断を選択すること
が必要である。