超音波検査手技
札幌ことに乳腺クリニック
白井 秀明
1 超音波診断装置および記録装置
リアルタイム超音波診断装置で体表専用の探触子を使用する。探触子は中心周波数9MHZ以上、ただしアニュラアレイ探触子は7.5MHZ以上で有ることが望ましい。現在、体表専用のリアルタイム方式の探触子は下記のごとく3種類ある。
高速機械走査方式 シングル探触子
アニュラアレイ探触子
電子走査方式 リニア探触子
電子走査方式は、乳房との間に水嚢などの音響カプラーをおいて走査した時期もあったが、最近ではフルデジタル化された探触子が開発され、浅部にもフォーカスを合わせることが可能となったため直接操作できるようになった。また、高速機械走査方式においても、水嚢はあらかじめ探触子内に組み込まれている。
記録装置は、静止画を記録できなければならない。動画を記録できる装置があれば診断に役立つことがある。
2 装置の条件設定
(1)ゲイン(Gain)とダイナミックレンジ(Dynamic Range)の調整
ゲインとは画像全体の明るさを変える機能のことである。ゲインが高すぎると白っぽい画像となり、嚢胞の中に内部エコーがあるように見えてしまうことがある。また、低すぎると充実性腫瘍が無エコーの嚢胞のように見えることがあるので、この両者を区別できるように設定する。
ダイナミックレンジとは入力信号の強さを対数増幅するときの幅のことである。ダイナミックレンジを上げると階調度が高くなり、グレイ調となる。良い画像では嚢胞内が無エコーに描出され、かつ腫瘤が脂肪組織と比較し、高、等、低、極低の4段階に分けられるくらいのコントラストがあることが求められる。一般の乳癌の内部エコーは脂肪組織より低く嚢胞より高いところにあるので、この領域でのエコー差は読みとることになる。
これらの調整は、機種または探触子導入の際設定しておくとよい。
(2)フォーカスの設定
ゲインの調整ができていれば次に乳房にプロープをあて、乳腺の位置にフォーカスを設定する。病変のある時は随時見たい部分にフォーカスを設定する。
(3)モニター上の画像表示の大きさ
スクリーニング目的の走査時には、注視視線を動かさなくても良いくらいの大きさに設定しておく。精査時の画面より一段階小さいくらいが目安。
3 体位
被験者は仰臥位とし、左乳房より走査を開始する場合は軽い左前斜位を取る。このとき検側乳房が胸郭の上に水平になるように背部に枕を入れて調節する。肘は軽く“く”の字に曲げ、脇を十分開けておく。大きい乳房では乳房下の皺を取るため、腕を拳上する。この時C’領域(axillary
tail)が縮んだ状態にならないくらいにする。同様に、右乳房のときは、軽い右前斜位をとる。
4 走査・操作法
乳房の位置にフォーカスがあっていることを確認し、乳房全体をくまなく走査する。この時探触子が皮膚に対して常に垂直に当たるようにする。
乳腺は前胸部より腋窩まで広く存在している。従って、個人差はあるが、走査範囲は胸骨内縁、鎖骨下縁、中腋窩線と乳房下皺に囲まれた部である。腋窩方向には副乳があったり、思ったより乳腺が広がっていることがあるので注意する。走査の方向に決まりはないが、水平断による縦操作、矢状断による操作と乳管の走行に沿う放射状操作のいずれでもよい。大切なのは、それぞれの走査が少しずつ重なり隙間のないようにすることである。さらに、見落としをなくすには少なくとも2方向での全乳房走査が必要である。乳頭直下、C’領域、乳房外側は所見を見落としやすいので注意する。乳頭部を観察するときは、ゼリーを多めにつけて空気を排除するか、乳頭の周囲より斜めに走査するとよい。病変を検出した場合、嚢胞は1方向のみの記録でよいが、それ以外の場合は少なくとも縦断像、横断像の2方向、病変によっては乳頭を結ぶ線の断面を加えた3方向の記録をする。
5 正常乳房の超音波像
探触子側より下記のように描出される。